今週の「アゴラの人々」

「こまばアゴラ劇場」に出入りする人々を追った、日々の記録。

週に一度、更新します。


 

vol.13 「アゴラのアンバサダー。2016.9.10

 

病気になって、8月いっぱい臥せっている羽目になった。
アゴラへひと月も顔を出さなかったのは無隣館に入ってから初めてだったと思う。無隣館のプログラムがない時期でも、観劇に行ったり、受付の手伝いに行ったり、チラシを印刷に行ったり、定期的に足を運んでいたから。

先日やっとアゴラへ行くことができた。
久しぶりの事務所。「心配したよ」「痩せたね、大丈夫?」なんて声をかけてもらえて、本当にありがたいなあと思う。溜まった古いチラシの整理と折り込みの準備をした。

 

ひと月来ない間に変わったことがあった。キッチンだ。
私はアゴラへ来た日はいつも、用事が終わるとキッチンへ行き、コーヒーを飲んでひと息ついて、それから帰る。急いでいたりキッチンが混んでいたりしなければ、そうするのがなんとなく習慣になっている。
この日もそうしようと思って、キッチンへ入る暖簾をくぐった。と、見慣れないものがすぐ目に飛び込んできた。新しいコーヒーマシンがある。私は以前、コーヒーが入っているポットを絵に描いて、「アゴラのキッチンにいつもあるポット」と題してチラシに載せていた。絵に描いたのでよく覚えている、銀のボディに、蓋と取っ手が黒かった。
あのポットがなくなって、カップを置いてボタンを押すとコーヒーが注がれるタイプの機械が置かれている。黒くて丸みのあるフォルム。ずんぐりしているけれどそんなに大きくはない。面白いのは、小さく切った緑の養生テープに「エスプレッソ(濃いめ)」「ミルク系 ※説明書みて」などと書いて貼ってあることだ。

もっと驚いたのは、そのコーヒーマシンの奥にあった「ドルチェ グスト」だ。こちらは、私は一度だけ使ったことがあったのでそれとすぐにわかった。専用のカプセルを入れてボタンを押すと、カプチーノだとか、ソイラテだとか、おしゃれなメニューを淹れてくれる機械だ。雪だるまのような形も、ボタンを押すとランプが順番に点滅するのも、ちょっと近未来のロボットっぽい。カプセルも棚の下に段ボール箱ごと置いてある。いつからあったんだろう!
ちょっと興奮して眺めていると、暖簾が動いてあかばねさん(青年団・赤刎千久子さん)が入ってきた。カプセルを手にしている私を見て、「おっ、チャレンジするんだ」と言う。「これ、いつからあったんですか?」と聞くと、「2週間くらい前かな?」との答え。

あかばねさんが、「何飲む?甘くないのならカプチーノとか、」とカプセルの箱を探る。「甘いのならティーラテとか…、あと見当たらないけど、チョコチーノっていうのがココアみたいでおいしい」と説明してくれる。
私はティーラテのカプセルを選んだ。一度使ったことがあるとはいえ、やり方を覚えているわけではない。キッチンの椅子に座ってごはんを食べ始めたあかばねさんにひとつひとつ教えてもらいながら、小さなロボットと格闘した。

私が出来上がったティーラテを飲みながらあかばねさんと話していると、長野さん(青年団・長野海さん)がキッチンへ入ってきた。長野さんは黄緑のカプセルをセットして、ボタンを押した。
3人で話している間に機械の抽出が終わり、マグカップを取って口をつけた長野さんは、ちょっと首を傾げるようにして空になったカプセルを見た。そして、「あ~、また間違えた~!」と言う。「抹茶ラテにしようと思ったのに。カプチーノだ…」
抹茶ラテは濃い緑のカプセル。カプチーノは黄緑のカプセルだ。カプチーノの方が手前に置いてあるので、直感で緑だから抹茶だ、と思ったのだろう。甘い抹茶ラテを飲むはずだった長野さんは、「ニガい~」と眉間を寄せながら飲んでいる。
ちょうどその時しょうしょうさん(青年団・藤松祥子さん)が来た。長野さんもしょうしょうさんも、アゴラで公演中の「子どもたちは未来のように笑う」の出演者で、この時はその休憩中にキッチンへ来たようだ。長野さんが飲んでいるのを見て興味を示したしょうしょうさんに、あかばねさんがまた「あのね、チョコチーノがおいしい」とおすすめしている。あかばねさんの「チョコチーノ」の発音は、「チ」の音がつんとしていてとても可愛い。私も「チョコチーノのカプセル、奥のほうにありますよ」と言ったのだけど、あかばねさんみたいに素敵に言えなかった。
しょうしょうさんは「今度やってみよう。これは、箱にやり方書いてありますか」と聞き、あかばねさんが「箱には書いてないよ」と答えると、「じゃあ、誰かが近くにいるときにしなきゃ」と言う。長野さんが「しょうしょう、ちゃんとできなさそう」と言う。しょうしょうさんが「ですよね」と即答したので、みんなふふふと笑った。

 

長野さんとしょうしょうさんが劇場へ戻り、私はティーラテを飲み終わった。
いつものようにマグカップを洗って拭き、棚へ戻す。私は身長が低いので、棚の高いところしかあいていない時は戻すのにちょっと苦労する。これもいつものことだ。
あかばねさんに挨拶をして帰り支度を始めると、あかばねさんが「元気になってよかったねえ」と言ってくれた。

 

ひと月ぶりのアゴラのキッチン。

ちょっと変わっていたことはあったけれど、やっぱり変わらず、好きな場所だ。

 

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