今週の「アゴラの人々」

「こまばアゴラ劇場」に出入りする人々を追った、日々の記録。

週に一度、更新します。


【お知らせ】 2016.8.8

作者の体調不良により、今週の「アゴラの人々」更新をしばしお休みさせていただきます。

毎回楽しみに待ってくださっている皆様、申し訳ありません。

 

今までの文章は、<これまでの「アゴラの人々」>ページにございます。どうぞそちらもご覧ください。

 


 

vol.11 「利賀の日々2016.7.30

 

利賀の季節だ。

無隣館では夏に合宿がある。毎年7月下旬に富山県南砺市の利賀芸術公園で行われる「利賀演劇人コンクール」の期間に合わせて、2週間弱、滞在する。
内容は、コンクールのお手伝いと観劇、修了公演に向けてのプレ稽古など。それから、グループ創作の課題があり、最後に発表もする。
ちょうど今、利賀では合宿真っ最中なのだけれど、私は今年は残念ながら大学の予定で参加できなかった。昨年は、大学のテストを終えてからできたばかりの北陸新幹線に乗り込み、最後の4日間だけ参加した。
富山駅まで行き、そこから1時間に2本しか運行していないローカル線を乗り継ぎ、さらに1日に2本運行のバスで山を登る。ひとりでこんな山奥まで来たのは初めてだったので、到着するまでの道のりもなかなかアドベンチャーだった。

私はまだ全然、利賀初心者である。初心者なりに利賀を紹介してみる。
緑と水と日光があって、虫と星がとても多い。外灯はほぼない。一番近いお店までも車で30分はかかる。周りには何もない土地だ。でも、ただの田舎というだけではない、強い引力みたいなものを感じる、不思議な土地だ。劇場、稽古場、宿舎が整備されて、一帯が演劇のための村のようになっている。

 

私の利賀滞在は4日間だけだったので、グループ創作の課題は利賀へ行かなかった人たちと、合宿後にやることになっていた。となると、創作でそれぞれのグループが話し合いや稽古をしている間、時間が空いてしまう。
朝、玉城さん(無隣館・玉城大祐さん)が、ミーティングで一日の流れを説明する。ミーティングが終わりそれぞれに散っていくなか、玉城さんのところへ行って、「私、創作の時間のあいだひまなんですけど、何かお仕事お手伝いありますか」と聞いてみた。玉城さんは「そうやね。今のところはないけどね。」と考えた後、「じゃあ、あっちの、青年団の人たちのとこ行って聞いといで。」と送り出された。なんかこのやりとり、『はじめてのおつかい』みたいだ。私が「はーい」と言ったら、玉城さんがお父さんみたいにほほえんで頷いていたのも。

無隣館の人々は滞在中、「アーパス」と呼ばれる、小中学校の建物を利用した施設で稽古や創作をしていた。劇場施設のあるところから、車で少し山を下ったところにある。私は結局特にお手伝いの仕事は見つからなかったので、一緒にア―パスへ行くことになった。
アーパスの中は冷房がそんなに効いていなくてもひんやりする。壁も床も白くて、窓から見える景色が緑豊かなので、より一層そう感じるのかもしれない。それに床も冷たい。小学校や病院の建物に独特の、すいつくような床だ。静かな廊下に、ぺたぺたと歩く音が響いて心地よい。
移動はみんなで一斉に車でする。けれど到着するとすぐ、グループごとに各々の場所に散らばっていく。教室や武道場、廊下の端や屋外など、それぞれに落ち着いた場所があるらしい。

 

私はひまなので、それぞれのグループが話し合っているところへふらふらと遊びに行った。スケッチしたり、写真を撮ったり。確実にお邪魔虫である。
会議室へ行くと、ゆっこさん(無隣館・岩井由紀子さん)がいた。ゆっこさんとは無隣館へ入ってすぐの集団創作で一緒で、会うといつも優しく話してくれる。お姉さんみたいだ。
ゆっこさんのチームは休憩中のようで、私にもかまってくれた。それが嬉しくて会議室を動き回っていると、「かがみちゃん、楽しそうだね」と笑った。
ゆっこさんの休憩も終わり、これ以上うろうろしても邪魔をしているだけなので、どこかで一人で本でも読もうかと廊下へ出た。

 

廊下の先に、かきやさん(青年団・カキヤフミオさん)がいた。武道場の横の階段の、下から4段目に腰かけて、頬杖をついている。
かきやさんは無隣館一期の先輩だ。今は青年団で制作関係のお仕事をしている、素敵なおじさまである。
「どうした、ひまなん」と言って隣を勧めてくれたので、お言葉に甘えて横へ腰かける。いろいろ話をした。利賀は本当に虫が多いですね、とか、アゴラでどんな仕事をしてるんですか、とか。
そのうちに、「かがみちゃんはこれからどうするの」と聞かれた。
無隣館一期の先輩たちの話をしたあとだったと思う。
「私は、」
ちょっと考えてから、勇気を出して、
「物書きになりたいんです」と言った。
思えば、私が劇作とか演出とかの演劇以外のことをやろうと思っていることを、アゴラの人に話したのはあれが初めてだった。まだ「アゴラの人々」をやろうなんて思いついていなくて、それどころかこれから私はどうしよう、と思い悩みはじめた頃だった。
かきやさんは、「それもいいねえ」と言って、またあれこれ話してくれた。

ちょっとひんやりするアーパスの階段に腰かけて、かきやさんと話し込んだあの時間は、利賀の思い出のなかでも少しとくべつに残っている。どれくらい話していたのか、そのほかに何を話したのか、あんまり具体的なことを覚えてはいないのだけれど、あそこの気温や空気や、遠くで聞こえた音なんかが、妙に鮮明だ。

 

利賀の合宿は、年の離れたお兄さんやお姉さんがたくさんできた気分だった。
今年の利賀はどうだろう。今頃、お兄さんお姉さんたちは何をしているのだろう。
遠く富山へ思いをはせながら、書きました。

 

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