今週の「アゴラの人々」

「こまばアゴラ劇場」に出入りする人々を追った、日々の記録。

月に数回、更新します。


 

vol.16 「アゴラの人々・出張版2016.11.08

 

 無隣館の前原拓也さんに会った。
 前原さんは、無隣館の同期であり、同じ大学の卒業生でもある。今は大学院で研究されているので、キャンパスでばったり会ったこともある。
 先日久しぶりに会って、「アゴラの人々に僕のことも書いてよ」と言われた。
「でも、前原さんとはほとんどアゴラで会ってないんですよね。大学で会ったことはありましたけど…」
「確かに。…三田の人々、になっちゃうね」
「アゴラの人々・出張版、ですかね。」
「いいねえー」
ちなみに、前原さんの台詞は、きれいなバリトンで脳内再生してほしい。
 というわけで、そんな冗談から始まった「アゴラの人々・出張版」を書いてみようと思う。

 つまり、アゴラで出会った人々に、アゴラ以外の場所で会った時の話。

 横浜で、ハルタカさん(無隣館・渡邉時生さん)に会った。
 無隣館二期にはワタナベさんがふたりいるので、下のお名前で呼んでいる(「時生」さんで、「ハルタカ」さんと読むのだ)。
 STスポットへ観劇に行く途中だった。
 修了公演の稽古が始まる少し前の時期で、ほとんど無隣館の人々に会うことがなくて寂しかったので、私は通りの向こう側を歩いているハルタカさんを見つけて嬉しくなった。目的地は私の歩いている側にあるので、ハルタカさんが信号を渡ってくる。私はちょっと立ち止まってみたけれど、気づいていないみたいだ。
 彼はとても背が高くて、ハリガネみたいに細い。遠かったけれど、普通の人間をにゅっと縦に引き伸ばしたみたいなそのシルエットで間違いないと思った。うつむきがちに歩いてくるその視界に入ろうと身体を折り曲げて近づいていったら、やっと目が合った。
 がしかし、その反応は、「あー」と大変あっさり。ちょっと拍子抜けで、「あれ、気づいてました?」と聞いてみると、「いや、全然」と返ってくる。顔を見るのも3か月ぶりくらいだったはずなのに、ついさっきまで話していたかのような真顔。あんまりにもあっさりだったので、なんだか面白くなってしまった。
以来、ハルタカさんに会ったときの反応を気にして見ていたのだけれど、久しぶりでも数日ぶりでも、たまたま会ってもミーティングのために会っても、彼の反応はどんな時でも変わらないということが分かった。いつでも真顔だ。
 ただし、一つだけ。ハルタカさんは、カレーの話をするときは、笑顔になる。
 「カレー好きなんですか?」と聞くと、「好きだねえ」と言って破顔一笑。真顔とのギャップが面白くて、忘れられない。

 

 吉祥寺シアターで「ニッポン・サポート・センター」の観劇をした帰り道、なかとうさん(無隣館・中藤奨さん)につきあってもらって靴を買った。
 たまたま帰るタイミングが同じだったので、「白い靴を探してるんですけど、吉祥寺の安いお店とか知りませんか?」と聞くと、「じゃあ、行こかー」と一緒に行ってくれたのだ。
 私は買い物をする時はたいてい悩みがちなので、なかとうさんのこともたくさん歩かせてしまった。観劇の前からだけれど、なかとうさんの声にいつもより元気がないなと思っていたら、昨晩全然寝ていないらしい。「眠いねん」と言ってぼんやりしている。
 私はその意外な姿にちょっとびっくりした。なかとうさんは、いつでも元気でタフなイメージがあるのだ。
私の中における彼の第一印象は「半ズボンの人」だった。無隣館二期が始まった昨年の4月頭、冬に逆戻りしたように寒くなって、12月のコートを引っ張り出して着ていたような日に、なかとうさんは半ズボンでアゴラへ来ていたのだ。「走ればあたたまるから」と言う。最近はどうしているかわからないけれど、少なくとも当時のなかとうさんの基本の移動手段は「走る」だった。私たちが「その距離はさすがに電車乗るでしょう」と言うような距離でも、「走れるやん」と言う。強靭な身体だ。
 富山県利賀での無隣館合宿の時も、彼のタフさに驚いた。合宿では最終日の大打ち上げのほかに、任意参加の「日々の打ち上げ」があった。飲みたい人は飲むし寝たい人は寝る、というスタイルだ。なかとうさんはほとんど毎日、日々の打ち上げに参加してお酒を飲んでいた。そして翌日の朝は遅れずに朝食へ来る。聞いたところによると、男子部屋の中で一番最後まで寝ているのに、出発の5分前にぱっと起きて、さっとトイレへ行って出てくるともうすっかり目が覚めて外出できる状態になっているらしい。
 そんな元気なところばかり見たり聞いたりしていたので、その日の眠そうななかとうさんは私の目にはとても珍しく写った。けれど「俺にも眠いときくらいあるで」と言う。そんな時に私の買い物に付き合ってもらって申し訳ないと思い謝ったら、「別にそれは、全然いいねん」と言う。なかとうさんは、タフで、優しいのだ。
 そのあとアゴラで何度か会ったけれど、そのいつでも元気だったので、あの日の眠そうな目はやっぱり貴重だったのかもしれない。

 

 アゴラの最寄り駅は駒場東大前駅なのだけれど、渋谷駅まで歩こうと思えば歩ける距離でもある。
私はこの帰り道が結構好きである。無隣館二期の講義や、修了公演のプレ稽古があった日なんかは、大勢が一斉に帰る。
 いくつかかたまりになって、2人とか4人とかで話しながら、つかず離れず、歩いていく。最近どう?とか。この前見た芝居、よかったよ、とか。自主企画の件なんだけどさ、とか。
それで、渋谷まで行くと、みんなそれぞれの路線に乗って去ってゆく。
 なんだか、無隣館そのものみたいだな。
 まっすぐ帰らずに、途中のお店でみんなで飲んだりすることも、よくあるのだけど。

 

 あ、なんだか急に、無隣館の人と飲みに行きたくなってきた。

 読んでくださってる無隣館のみなさん、行きましょう。

 

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