今週の「アゴラの人々」

「こまばアゴラ劇場」に出入りする人々を追った、日々の記録。

月に数回、更新します。


 

vol.22 「『台北ノート』の日々・その一2017.2.28

 

 2月の半ば、平田オリザ+盗火劇団の「台北ノート」に、スタッフとして参加していた。


 平田オリザの代表作「東京ノート」を、台北の劇団・盗火劇団とのコラボレーションで翻案。TPAM(国際舞台芸術ミーティング in 横浜)2017参加作品。会場は、みなとみらいの横浜美術館だ。
 情報量が多すぎて、作品の概要を簡単に説明するのも大変だ。

 
 会場となる横浜美術館のグランドギャラリーは、正面玄関を入ってすぐ目の前に広がる、大きくてきれいで開放的な空間だ。
 「御影石をふんだんに使った高さ約20メートルの広々とした吹き抜けのエントランスと、左右約100メートルに広がる階段状の展示空間から成る、横浜美術館のシンボルともいえるスペース」である(横浜美術館のHPから引用)。 左右に広がる階段をのぼっていくと、その上に展示室がある。

 

 劇場ではなくて、美術館での公演だから、異例なことがたくさんある。
 まず、客席を自分たちで組む。

 そして普通の劇場であれば、最初に小屋入り(劇場を使い始めること)した日にセットを組んだらそのままにしておけるのだけれど、今回はそうはいかない。次の日も、美術館は美術館として開くからだ。

 釘1本残さず、広々とした普段のグランドギャラリーに戻さなければならない。
 荷物を全部運び込む日、場当たりする日、ゲネプロの日、本番の日、といろいろあるわけなのだけれど、その日に組んでその日に全てを片づけて収納して帰る。

 

 美術館での作業初日は休館日だったので、朝から作業だった。

 とにかく人手が必要なので、青年団からも無隣館からもたくさんの人が参加している。
 美術館の搬入口につながる広いエレベーターの中、マチコさん(青年団・松田弘子さん)と一緒になった。「お久しぶりです」と挨拶したら、マチコさんは私の顔を見て、「前髪、短くなったね」と言った。
 そう、私はつい最近前髪を切りすぎてしまったのだった。うっかりこんなに短くしてしまって恥ずかしいと思っていたのだけれど、マチコさんに気づいてもらえたのは嬉しい。
 それがあったからか、そのあとトラックからグランドギャラリーへどんどん荷物を運びこみながら、作業のときに髪が目にかからなくてこれはこれでよいかもしれない、なんて思った。

 

 荷物をすべて運び終えたら、木でできた枠を組み合わせて、階段状の客席を組んでいく。

 言われた通りに次々に枠を運んでいくと、パズルのように階段ができていくので感動してしまった。

 枠同士はインパクトドライバーを使いナットで留めていく。
 のじさん(青年団・能島瑞穂さん)は、ナットをかごに入れて、必要なところへ配っていた。かごを曲げた腕に提げている姿がかわいい。
 小さくかがんで下の方をとめようとしていたシゲルさん(青年団・佐藤滋さん)も、のじさんからナットを受け取った。

 シゲルさんが、配り歩くのじさんを見て「なんか、かごが似合いますね。ナット屋さんだ」と言う。

 確かに、のじさんのその姿と、「ナット屋さん」という言葉、ぴったりだ。

 

 シゲルさんは動きが速い。

 ひとつ作業が終わると、どこかで次の仕事があると、誰かが呼ぶと、すぐにサッと移動する。

 近くにいると、背が高くてがっしりしている身体がぱっと目の前から消えるので、視界が急に変わったように思う。

 対して私は小さいうえに動きがちょこまかしているので、あの機動力はすごいなあ、なんて思う。あ、思っている間に動けばいいのだ、といま、書きながら気づく。
 力持ちでもないし、こんなことを書いていると、私が作業スタッフとしてはなかなか役に立てていなかったのがばれてしまうのだけれど‥‥。

 

 私はこの日だけ用事で早退しなければならなかったので、片づけまではいられなかった。
 次の作業日に美術館へ行くと、一般のお客さんから見えない位置に、小分けにバラされた階段やその他諸々の荷物がこれまたパズルのように収納されていた。感動。
 その日以降は、美術館が閉館の時間になり、お客さんがみんな美術館の外へ出たのを確認して合図が出たら、そこから「よーいドン」で組み立てが始まる。
 一気に人が動き始めて、協力し合いながらひたすらに作業を進める。静かなお祭り騒ぎだ。

 

 そんな静かなお祭り騒ぎのことも、休憩時間のことも、いろいろ、いろいろと書きたい。
 けれど、長くなってしまったので、今回はここまで。
 次回も、「台北ノート」について書きます。

 

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