今週の「アゴラの人々」

「こまばアゴラ劇場」に出入りする人々を追った、日々の記録。

月に数回、更新します。


 【お知らせ】

 「アゴラの人々」は、2年目も続くことが決まりました。

 ちょうど一周年となる2017年5月、リニューアルオープンします。


 

vol.24 「南の島の退屈な人々」2017.4.20

 

 今、アゴラに、南の島ができている。

青年団・こまばアゴラ演劇学校“無隣館”「南島俘虜記」の公演中なのだ。

近未来の架空の戦時下、南の島に囚われた日本人捕虜たちの、”退屈”な日々の話。

A、B、Cチームのトリプルキャストで上演している。


これは、無隣館二期の修了公演だ。
そしてアゴラには4月から、無隣館三期が来ている。
ということは私たちが二期生として来てからもうまる2年も経つのかと、
しみじみしているのはたぶん、私だけではない。
というわけで今回は、「南島俘虜記」に出ている、無隣館の人たちのこと。

 

Bチームの公演があった日、

帰り道、渋谷まで出演者のみなさんと一緒に歩いた。

その日は夕方から雨が降って、急激に寒くなっていた。

事務所から傘を持って1階へ降りていくと、 小田原さん(小田原直也さん)が入り口に立っていた。

小田原さんは普段大変に優しい人なのだけれど、今回演じている役は、決して良い人ではない。

思えば、小田原さんとは無隣館の最初の課題で同じグループだった。

私はその時からずっと変わらず、本当に良い人だなあと思っていたので、

今回の芝居は新鮮だった。


みんなで歩き始めようとしたとき、小田原さんが傘を持っていないのに気付く。

私が「事務所で傘借りてこれますよ」と言ったのだけれど、

「いやあ、いいよ。なんか別に、濡れても」と、なぜか濡れて帰ろうとする。

普段の小田原さんは、私のイメージでは、

こういう時すぐ事務所まで走って行って、なんなら人の分まで傘を借りてくるような人なのだ。

しかしなぜかこの日は「いやあ」ばかり言って歩き始めてしまう。

私が慌てて自分の傘を開きながら、

「どうしたんですか、なんか変じゃないですか」と突っ込むと、

「別に全然、何かあったわけじゃないんだけどね」と言い、

「役を引きずってるのかも」と笑った。

でも、私の傘に入ってもらって渋谷までの道を半分ほど行ったところで、

小田原さんは急に

「あ、いいよいいよ、持つよ」

と言って私の手から傘をさっと取った。

「ごめんね」

と言って私の方に傘を傾げてくれる。

あれ、やっぱりいつもの小田原さんだ。

歩いているうちにだんだん身体が冷えて、南の島にいた役が抜けてきたみたいだった。

 

永山さん(永山由里恵さん)はCチームの出演者だ。

Aチームの公演の日は、アゴラの事務所で働いていた。

私が事務所に入ると、永山さんは振り向いて、

「あらー、今日もいるのね、おつかれ」

と言ってくれた。

私は嬉しくて、近寄って行って白くて細い腕をぺたぺた触った。

実は永山さんとは、無隣館の課題のグループなども一度も一緒にならず、

1年目の頃はあまり話したことがなかったのだ。

だからしばらくは綺麗な人だなあと思って遠くから見ているだけだったけれど、

2年目の自主企画公演の頃からおしゃべりする機会ができるようになって、

それ以降とても愉快な人だというのがわかってきた。

2年間もあると、こういうことがあるから面白い。


その日開演前の事務所にいたのは、永山さんと私だけだった。
棚の前の椅子に座って永山さんと話していると、
開演10分を切った頃、ドアが急に開いた。
入ってきたのは、吉田庸さん。
永山さんが笑いながら、
「あーなんだ、吉田庸か!女子二人だからドキッとしちゃったよねえ」
と言う。
吉田さん含め捕虜役の人たちはボロボロの服を着ているうえ肌を汚しているので、
その状態で急に事務所に入ってくると、こちらは一瞬何事かとびっくりするのだ。
5分後には舞台に出ているというのに、吉田さんは悠々とお手洗いに入り、私たちとおしゃべりする。
永山さんと私は、
「こんなに余裕でいいんですか」
と突っ込むのだけど、
吉田さんは
「集中してるよー」
とゆるゆる言う。相変わらず低くて良い声だ。
吉田さんは終始そんな感じで、
「よっしゃ、そろそろかー」
と言って劇場へ降りて行った。
事務所のモニターで無事に吉田さんが舞台に出ているのを確認すると、
永山さんと私は、
「よかったよかった」「さすがに心配になったよね」「びっくりしましたね」
と言い合って笑った。

 

Aチームには、さきちゃん(折舘早紀さん)が出ている。

衣装を着たさきちゃんは大変キュートで、

私が初めて見た時に思わず「さきちゃんファンへのサービス!」と言うと、

「いやいやいや」と笑っていた。

二期が始まった2年前の今頃、さきちゃんは18歳、私は19歳だった。

私たちは無隣館にいる間に成人したのだった。

だからって、特別に何かあったわけじゃないのだけれど。

でもきっと、10年後くらいに「はたちの頃何してた?」と聞かれたら、

私はこの2年間をまるまる思い出すんだろうなあと思っている。

さきちゃんはどうかなあ。

この2年のことを、どう思っているんだろう。

 

本当はもっと、無隣館二期の総集編になるようなことを書ければいいなと思っていたのだけれど、

結局、最近あったことをちょっとずつ、訥々と書くばかりになってしまった。

まあ、でも、あてどなく書くのが「南島俘虜記」の雰囲気に合っているかと思って…。

そんな弱々しい言い訳を締めにして、

今回は、以上です。

 

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